読書会2:(著:リチャード•ロジャース、アン•パワー)

〜シームレスでスケールを超えた、
サステナブルデザインの実現に向けて〜
文責:今井将人 

本書は、『都市 この小さな惑星の』の続編として、建築的な視点と社会学的な視点を結びつけながら展開する都市再生論である。そして、多くの調査・研究資料をもとに、建築家リチャード・ロジャースと研究者アン・パワーが、現在の都市問題を明らかにし、根本的な解決策を提案するとともに、主にイギリスの都市での実践を通して都市の美と価値を訴えている。
具体的な問題としては、郊外へのスプロール、エネルギーの濫用、環境破壊、疲弊した中心市街地、隔絶したコミュニティといったことが挙げられ、こうした問題が消費の少ないコンパクトな生活へとわれわれを向かわせつつある、と述べられている。そして、コンパクトシティに向けて、建築による解決策・都市計画による解決策・交通による解決策など様々なスケールからのアプローチが提示されている。例えば、建築による解決策であれば、イギリス固有のテラスハウスのフレキシブルさに着目しており、リノベーションによる建物を長く使用する住まい方を進めている。都市計画による解決策であれば、建物の集積、用途の混合、街路への大きな開口、魅力あるファサード、公共のオープンスペース、都市のアクティビティの連繋、より高い密度の必要性を述べている。また、交通による解決策であれば、バス・トラム・鉄道・道路・自転車・歩行者が統合された地域の交通計画の料金の乗り換えにまで踏み込んだ、ソフトとハードの両面からの対応を求めている。繰り返すが、これらの解決策はすべて、『サステナブルなエネルギー計画とコンパクトなデザイン、そして環境の負荷の最小化』という共通の目的のもと、この目的を達成するためにはそれぞれがシームレスに連繋しなければならないことを主張している。
それでは、この本が環境的視点から建築を考える人たちに示唆しているものは何であろうか。それは2つあると思われる。1つめは、すでに述べたが「スケール横断的な思考」だ。もし、DECo的な建築が局所的に実現されたとしても、それらが周囲と連続していかなければ本当の意味での効果を持たないであろう。そのためにも、個々の建物だけに完結せずに、例えばドイツのシュトゥットガルト市における“風の道”のように、街区単位での建物配置をも考慮した、学問の枠を超えた横断的な協力体制が早急に求められる。そして2つめは、「評価システムの確立」だ。こうした学問横断的な協力体制を確立するためにも、建築物の環境品質・性能と環境負荷を評価するCASBEEにとどまらず、環境建築を都市の中でも評価できるシステムなるものが必要なのかもしれない。
この本は、建築の都市における役割を考えるときに示唆に富むものが多い。そして、一見とても壮大な問題であっても、リチャード・ロジャースがあらゆる点から建築にできることを、カタチに落として実現しようとしている姿勢に学ぶべきことはたくさんある。建築にできることの、さらなる可能性を追求したいときに手にしてはどうだろうか。