ホールデンの小さな箱 の家

(文 小見山陽介)


先週水曜日、TUMミュンヘン工科大学ホールデン研究室を訪ねました。
帰り際、ホールデンは僕らを彼の“家”に招待してくれました。
それは信念であるless is moreを彼自身が体現する住居でした。



ホールデンを待っている間、通りかかった人から「この箱はなんだ」と聞かれたので、
「TUMの教授が設計した住宅で、彼自身もここに住んでいる」と答えると、
「嘘だろー」とみな笑いながら行ってしまいました。



ホールデンは週の半分をロンドンのオフィスで過ごし、残りの半分はTUMで教鞭を振るっています。
ミュンヘン滞在時に利用しているのが、彼自身の作品でもあるこのmchマイクロコンパクトホームです。


一辺2.66メートル、立方体型の最小限住居。
ホールデンはその発想の源を、ヨットや車、そして日本の茶室から得たと説明しています。


mchの構造は木造フレームで、酸化処理されたアルミニウムの外装材で覆われています。
断熱材はポリウレタン、窓は二重ガラス、防犯のためドアには二重に鍵が掛けられます。


天井高198cmの内部空間には、
入ってまず左手にシャワーとトイレ、さらに左手奥にはキッチン、
右手にはベッド、その下にエクストラのベッドと5人まで座れるテーブル、
その他いたるところに収納が設けられています。

キッチンには、
IH式の二穴コンロ、シンク、電子レンジ、冷蔵庫、分別できるゴミ箱、食器棚、食器洗い機、カウンター
が納められています。

そのほか、有線LAN、薄型テレビ、暖冷房エアコン、給湯器、火災報知器も備えつけられています。


ラクリ小箱のような、まったく隙のない空間です。



キッチンの引き出しの中には無印良品製のレトルト食品がたくさん入っていました。
棚の中にはエスプレッソメーカーが見えます。
右端に写っているのが電気とテレビ、インターネットの端子です。



mchのプロジェクトは、2001年にTUMのホールデン研で「2.6m cube dwelling」として研究が始まり、
その後、日本の東京工業大学との共同研究として進められ、
2005年にそのプロトタイプ6件が企業のバックアップを得てミュンヘン市内の公園に建てられました。
僕らが訪ねたホールデンの家はそのうちの1つです。


mchはトラックで輸送することができ、クレーンやヘリコプターで吊り上げることもできます。
また、気積がわずかであるため、室内を暖めたり冷やしたりするために必要な時間もエネルギーもわずかです。
本体には5年間の保証期間が設けられていますが、解体時には工場に持ち込まれリサイクルされます。
(ちなみに気になるお値段は新築一棟5000ユーロとのことですが、中古品も流通しているとか)



作品だけでなくその生き方まで「コンパクト」で首尾一貫しているホールデン
彼の愛車はもちろん、コンパクトカーの代名詞、smartです。